入社一週間で体験設計のワークショップを計画・実施してみた
こんにちは!パイオニア株式会社 SaaS Technology Center(以下、STC) モバイル開発部の若葉です。
今年3月に入社し、エンジニア組織の一員としてモバイルアプリ開発における情報設計やユーザー体験に関わる領域で活動しています。
これまでWEB・アプリサービスの事業会社数社でUI・UXデザイン周りの仕事をしてきましたが、老舗メーカーであるパイオニアがIT系人材を広く募集しているということで縁あって入社することになりました。
今回は私が入社直後に新規開発プロジェクトで体験設計のワークショップを計画・実施した際の経験談を書きます。
キャリア入社者から見た今のパイオニアの雰囲気を少しだけでも感じていただけたら幸いです。
組織の課題感と入社初日のPJアサイン
パイオニアではSaaS企業への変革に向けて時代の変化に柔軟に対応すべくアジャイル型の開発スタイルへの移行を目指す過渡期と言える状況です。
そのような中、私が所属するSTCではプロダクト開発においてユーザー体験を設計するプロセスが明示的に実施されておらず、要求漏れや手戻りが多く発生しているという課題感を持っていました。
私は入社初日、オリエンとして会社説明を受けたりPCやアカウントの設定など諸々のセットアップを行ったわけですが、その後の所属部門受け入れが終わった夕方に上長から新規開発プロジェクトへのアサインを言い渡されました。入社前から既に「体験設計のファシリテーター」として私の名前が載った体制図が展開されていました。
STCではまだ私以外にいない職域なので徐々に実際の業務に入りキャッチアップしながら自分のロールを定義していくものという甘い考えでいたので、内心焦りつつも「体験設計」を実践する何らかのアプローチについて入社初日から検討がスタートしました。
課題の設定とワークショップの提案
課題感はある程度イメージ出来るものの自分自身で実態を捉えているわけではないため、翌日に簡単な提案資料を準備した上で上長に場をセットしてもらい、挨拶を兼ねて企画担当者に提案・ヒアリングを行いました。
私なりに「体験設計」というキーワードを噛み砕いてUXリサーチやバリュープロポジション、ペルソナ、カスタマージャーニー等といったUXデザインプロセスに関連するフレームワークやプロセスを提案したのですが、「また同じプロセス踏まないといけないの?」という反応が返ってきました。
具体的に話を聞いていく中で、一連の「体験設計」に相当することは計画フェーズで実施しているものの、ウォーターフォール型のワークフローゆえに企画・開発間での情報共有や意見交換の場が少ないのが課題なのではと理解しました。
私が参画したタイミングは企画から開発側へ要求がインプットされ要件定義に進めていくフェーズにありましたが、開発側から見て企画者のやりたいこと(フィーチャー)は伝えられているが、コンセプトや提供価値に関する情報が断片的で本当に作るべきものが捉えにくいものとなっていました。
企画者が描いているユーザー体験を実現するにはまだまだ言語化・視覚化されてないことがありもっと対話が必要だと感じました。
そこで、ユーザーストーリーマッピングのワークショップを実施するのが良いのではと企画担当者に再度提案しました。
ユーザーストーリーマッピングはまだやったことが無く、開発側から意見やアイデアが貰える機会は歓迎ということだったので、とにかくやってみようということになりました。
ユーザーストーリマッピングについて
ユーザーストーリマッピングとは、関係者が集まり、顧客にとっての価値となる「ストーリー」を付箋に書き出し、ユーザーが体験する時系列に並べていくことで、プロダクトの全体像や提供価値を整理・把握するというものです。また、縦軸で優先度順にストーリーを並べることでプロダクトのロードマップ策定やリリース計画に役立てることが出来ます。
適切な粒度の「ストーリー」を扱うことで、企画・開発双方の視点からユーザー体験を意識した対話を生みやすく、共創のための手段として有効だと考えました。
ただ、ユーザーストーリーマッピングよりも前の段階で本来行われるべき共創プロセスの意味合いも含めたかったので、企画者から共有してもらったペルソナやカスタマージャーニーマップをもとに、ユーザーストーリーマップにおける時間軸の流れに合わせて、ペルソナのアクティビティや思考・ペインポイントを照らし合わせて考えられる工夫が必要でした。
アジャイル型開発ではユーザーストーリーマップの縦軸の優先度に基づいてMVP(Minimum Viable Product)の範囲や次回リリース分の範囲のラインを引いたりすることが一般的ですが、MVPを定義することに関しては、前提となるマインド醸成や認識統一が必要で、今回のワークショップの時間内では難しいだろうと思いました。
パイオニアは「モノ×コト」での価値提供を推進しているのでスマートフォンで完結するプロダクトのようにはいきません。
ハードウェア製造に適した、「上流工程で要件をしっかり固めて決まったものを期日までに作りきる」というようなウォータフォール型のワークフローの流れを汲む途中段階からの今回の試みなので、完全にワークフローを変える!というよりはまずは関係者での新しい対話の機会を作れれば良いくらいの心持ちで臨みました。
今回のワークショップの目的としては、「企画者と開発者の対話の場を作り、ユーザーが体験することのアウトカムに意識を向け、提供価値の共通認識を作ること」を第一に置くことにしました。
ワークショップの準備
プロジェクトマネージャーを通じて関係する企画者・開発者・デザイナー等にワークショップ開催の周知をしてもらい、重要メンバーの予定やスケジュールの都合もあるということで、翌週に2Days実施する形であれよあれよと日程が決まりました。
正直なところ、私自身がワークショップをファシリテートするのもメンバーとして参加することも得意ではない上に、プロジェクトの概要・経緯のインプットもままならない状況で、顔、名前、役割、知識もほぼわからない20数名の参加予定者がいることを知りテンパっていました。(笑)
そんな状況の中、フラットな対話が生まれるような場を作り、意味のある時間にしなければならないので、オライリーの「ユーザーストーリーマッピング」の本を復習しつつ、以前の職場でのワークショップの経験や知識を思い出しながら、1〜2日でプログラムをなんとか準備しました。
当日のプログラムはこんな感じです。
当日は同じ部のメンバー(この時初対面)に協力してもらい、大会議室の確保、付箋やペン、資料投影用のプロジェクター、椅子・机のレイアウト変更などの事前準備をしました。
また、ワークをスムーズに行えるよう、会議室の壁に予めカスタマージャーニーのステージ、骨格となるストーリーをガイドとして付箋で貼っておきました。
ちなみに過去の経験上、個包装のお菓子があると話しやすい雰囲気を作るのに効果的だったのでコンビニで用意しました。
実施してみた結果
<Day1>
出来る限りの準備はしたものの、いざ始まってみるとやはり前提や目的の認識合わせ、マッピングのやり方についてなどそこそこ紛糾してしまい、結果、プログラムの予定通りには進まずワークの途中で時間オーバーとなってしまいました。
ただ、うまく進行出来なかったことの負け惜しみでは無いですが、そうなったらそうなったでOKともどこかで思っていました。
私自身も含め、皆それだけ対話の時間が必要だったということだからです。
これまで自分が在籍した会社では良くも悪くも抵抗なくラフにワークが進んでしまうところもあったので、多少紛糾してでも認識合わせをしっかり行うことは大事ですし、私としては学びになりました。
一方でユーザーストーリーマッピングの成果としてはかなり不安が残るままDay2に持ち越しとなりました。
<Day2>
Day1で交わされた会話や一度でもワークを実践したこと、中数日空いたことで参加者一人一人のこの状況をなんとかしなければという思いが働いたせいか、Day1 とは打って変わって非常に前向きな対話が生まれていました。
当初は難しいと考えていたストーリーを優先度で並べMVPの範囲を決めるということに関して、要求を出す側の企画者が率先して発言し整理を進めてくれたこと、開発者がHOW(=機能・実装方法)でなくWHY/WHATで会話することを皆意識しながらワークに臨んでくれたこと、さらには元の要求にないアイデアを出してくれたことは嬉しい驚きでした。
パイオニアの人は歴史あるメーカーだけに皆、良いものを作りたいという根底の思いの強さがあるのだと勝手に感じていました。
良かった点・反省点・課題
ワークショップの最後に参加者全員でKPT(Keep=良かったこと・継続すること/Problem=改善すべきこと/Try=今後取り組むべきこと)を用いて振り返りをやりました。
多くの参加者の方がFace to Faceで意見を言い合い作るべきもののイメージを共有できたことをKeepに挙げてくれました。
私としてはリアルかオンラインかということに関わらず会話量を増やすということが重要なのだと感じました。
Problemについては、やはり準備不足や前提・目的の認識合わせに関すること、対象範囲が大きく人数も多かったため一つ一つのテーマの深掘りの不十分さについての声が目立ちました。
Tryについては、あまり挙がりませんでした。
これから具体的な開発要件に落としていくにはまだまだスタートラインにも立っていない状況には変わりなく、今回のワークショップがこの先どう活きてくるのかの具体的なイメージが持てないということだと理解しました。
今後ユーザーストーリーマップで整理した内容をUIデザインやプロダクトバックログに反映し、本開発に引き継いでいく一連のプロセスを着実に進めていく必要があり、引き続きユーザー体験の観点から開発プロセス構築に寄与していくことを私のTryとしていきたいと思います。
変革という大方針に対して体制や制約による実態とのギャップはまだまだ大きく手探りなところも多いですが、異なる企業文化で育った中途入社の人間にとって何かアクションすればしただけのリアクションと学びが得られるのは他にはない魅力を感じています。
そんなわけで・・・
おわりに
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