KPIマネジメントを成功に導くためにデータアナリストが大切にしていること
この記事はPioneer Advent Calendar 2022の4日目の記事です。
今日は、データアナリストの私がKPIマネジメントを実施する上で、「3つのアンチパターン」を通じて特に大切にしていることをお伝えします。
自己紹介
読者のみなさま、初めまして。
パイオニア株式会社 SaaS Technology Center(以下、STC) データインテリジェンス部 グロースアナリティクスチームでデータアナリストをやっている室水 仁(むろみず ひとし)です。
これまでWebマーケティング系のベンチャー、総合系コンサルティングファーム、人材系スタートアップの3社を経験して、2022年7月から現職にジョインしています。
弊社にはいくつかの事業部が存在しているのですが、現在私は一つの事業部に入り込んで、以下のような業務に取り組んでいます。
■取り組み中の業務例
短期/中長期的な事業戦略策定に係るデータ分析
市場動向の調査/分析
各種予測算出
シナリオプラン作成
組織全体のデータ利活用促進
KPI策定
KPIマネジメント
各種ダッシュボード作成
データ基盤構築
本日のアドベントカレンダーの記事では、上記の中でも私が特に時間を割いている「KPIマネジメント」について、個人的に大切にしていることをお伝えしたいと思います。
まだまだ若輩者なので、内容に対して「それは違うんじゃないの?」「もっと良い方法がありそう」などあれば、お気軽にnoteのコメントでご指摘いただけますと幸いです。(社内の方は個別にご連絡ください。笑)
この記事の想定読者
現在、KPIマネジメントをリードしている方
これからKPIマネジメントを導入しようと考えている方
事業数値のモニタリングとKPIマネジメントの違いが分からない方
この記事で解決できる(かもしれない)お悩み
KPIマネジメントの"あるべき姿"が分からない
メンバーのKPIに対する達成意識(コミットメント)が弱い
KPI達成のために社内リソースを有効活用したいが、社内障壁が厚い(ブロックされる)
KPIマネジメントとは?
KPIマネジメントとは、「事業目標であるKGIを達成するために、KPIを管理(マネジメント)すること」です。
ここでいう「管理」とは「能動的に対象を操作すること」だと思っています。
なぜ、こんなことをわざわざ太字にして強調しているのかと言うと、KPIマネジメントを以下のアンチパターンで実践している人が多いからです。
KPIマネジメントを失敗させるアンチパターン3選
私がよく見るKPIマネジメントのダメな例は以下の通りです。
KPIマネジメントとは、モニタリング用のダッシュボードを作ることだと思っている
KGIと強い相関のある指標をKPIに設定すればよいと思っている
KPIマネジメントの重要性が組織全体で浸透していない
それぞれがなぜアンチパターンと言えるかを説明します。
1. KPIマネジメントとは、モニタリング用のダッシュボードを作ることだと思っている
「事業数値をモニタリング・可視化し、数値を定点観測すること」をKPIマネジメントと理解されている方もいらっしゃいますが、それはKPIマネジメントを行うための手段です。
つまり、KPIダッシュボードの構築とその監視は、KPIマネジメントの目的でもなければ目標でもありません。
KPIマネジメントで担保すべきは、以下の4つです。
KPIの増減または維持に至った原因を明確にすること(事業の健康診断)
効果が最も期待できる打ち手を導き出すこと(改善施策の検討)
そのアクションの履行強度や監視を強めること(アクション強度の担保)
打ち手の効果検証を実施し、「勝ち筋」を特定すること(効果検証)
平たく言えば「PDCAサイクルを回すこと」です。これらが全て担保できて初めて「KPIマネジメントを実施している」と言える状態です。
このことから、KPIダッシュボードを作っただけでは上記1~4を担保できていないため、このアンチパターンではKPIマネジメントの手段が目的化しており、能動的に対象を操作できていないことがお分かりいただけるでしょう。
2. KGIと強い相関のある指標をKPIに設定すればよいと思っている
KPIマネジメントをはじめるには、KGIとKPIを設定する必要があります。
KPIマネジメントをリードしている人であれば、「KGIとKPIは強い相関関係にあること」が重要だと理解しているため、それが担保できる指標を設定していることでしょう。
しかし、実は「相関関係」だけに注目していると適切なKPIを設定できないリスクがあります。
たしかにその関係性も重要なことではありますが、それよりも「因果関係」と「コントロールできるか」の方が重要です。
まず、「因果関係」についてです。
因果関係とは「2つの事象が、原因とそれによって生ずる結果で結ばれている関係」のことです。
一方で相関関係とは「2つの事象に何らかの関係性が認められること(数学的には、一方が増加した際に他方が増加または減少する関係のこと)」を指します。
つまり、因果関係は相関関係に包含される関係にあるということです(因果関係⊃相関関係)。
※ただし、相関関係にあるからと言って必ずしも因果関係にあるとは言えない点に注意してください。
【因果関係の代表例】
・「人口」と「店の数」
(人口が増えると、店の数が増える)
【相関関係の代表例】
・「出生率」と「死亡率」
(出生率が高い地域ほど死亡率が低くなる傾向にあるが、「病院の数」という第三の変数の方が「出生率」と「死亡率」の増減の原因だと思われる)
上記相関関係の例を見るとお分かりの通り、相関関係にのみ着目してKPIを設定するとKGIとは因果関係にない指標を管理してしまい、結果的にKGIを改善するための施策を講じられないリスクが高まります。
これに伴い、KPIマネジメントの必要条件である「能動的に対象を操作すること」ができないリスクも高くなるでしょう。
次に「コントロールできるか」についてです。
KPIは自社でコントロールできる指標を設定するべきです。
先ほどの因果関係の例から、「店の数」を増やすためには「人口」を増やせばいい、「人口」をKPIに設定すれば良い、と考えられるかもしれません。
しかし「人口」は一企業が簡単にコントロールできる指標ではありません。そのため、仮にKPIに「人口」を置くと、社会の成り行きに身を委ねるような事業運営になるでしょう。
この例を見て「そもそも人口なんてKPIに設定するわけない」と思われるかもしれませんが、意外と気づいていないだけで人口のようなコントロールしにくい指標をKPIに設定しているケースは少なくありません。
例えば、「LTV(Life Time Value=顧客生涯価値)」を設定している場合は注意が必要です。
① LTV= 1回あたりの平均購入単価 × 購入回数 × 収益率
② LTV = 年間取引額 × 継続年数 × 収益率
LTVは以上の計算式で求められますが、仮に顧客の80%において①の「購入回数」が上限を迎えていたらどうでしょうか。
改善余地は顧客の20%のみとなり、コントロールできる母数がそもそも限定的になってしまいます。
また、事業内容や目標達成の時間軸にもよりますが、購入単価や収益率は簡単に変えられるものではない(時間がかかる)ことが多く、事実上は「購入回数」のみがKPI改善のターゲットとなることがあります。
そうなると、LTVの改善を行なってもKGIへのインパクトは限定的になるでしょう。
「購入回数が上限を迎えるケースなんてあるのか?」という問いが思い浮かぶかもしれませんが、これはビジネス上の前提条件が覆らない限り、事業やその顧客属性によっては十分に起こりうる事象です。(例:就活生の◯%は、夏インターンシップの参加可能最大数をX回としている etc..)
このことから私は、現在のビジネスにおいて、KPIの構成要素が上限を迎えていないか、コントロール可能余地が十分にあるかを確認するように心がけています。
3.KPIマネジメントの重要性が組織全体で浸透していない
マネジメント層がKPIマネジメントをしようと言い始めても、メンバー層がKPIマネジメントの意義や重要性を理解できず、KPIマネジメントが上手くいかないという場面に直面することがよくあります。
これは以下のような原因が考えられます。
KPIマネジメントの進め方をリード役が具体的に示せていない
KPIマネジメントのメリットと、しないことによるデメリットを示せていない
数値構造の解像度が低い
データを用いた論理的な進捗報告にハードルを感じている
必要なデータが組織のどこにあるか分からない
データの所在が分かっていても取得が面倒に感じている
プロダクトアウト的な文化が根付いている etc..
KPIマネジメントを成功させるためには、マネジメント層からメンバー層まで自社組織の全ての人が同じ目線でKPIマネジメントの重要性を理解し、積極的にKPIマネジメントに参加するマインドが必要だと思っています。
「◯◯さんが言うから、やっている」
このような発言が関係者から出てくる時は超危険です。
時にはこのようなトップダウンが機能することも重要ではありますが、上記の発言はその人が「点」でしかKPIマネジメントを理解できていないことを示します。これではKPIマネジメント自体のROIが最大化されません。
したがって、そうした状況に陥らないように以下のような事柄について徹底的な合意形成が求められます。
As Is (現状の状態)/ To Be(理想の状態) / Issueの定義
KPIマネジメントの理想像について関係者全員と合意形成する。
理想像は口頭ではなく、テキストやグラフを用いたドキュメントに落とし込み、関係者全員の教科書に該当するものを作る。
オペレーションと役割の定義
どの指標が、どうなったら、誰が、いつ、何を、どのようにするのかを合意形成する。
関係者の一人ひとりが担当指標を受け持ち、データに対してインフォメーション(データの説明・コンテキスト)を付与し、その具体的な改善案を提案するところまで責任を持つ。
会議体の設定
適切な頻度と参加者で開催される会議体の設定。
関係部署とのナレッジ共有
KPIマネジメントを通じて得た知見(成功体験・失敗体験)は蓄積し、関係部署に適宜共有する。
KPIマネジメントの土台を作る上で重要なのは、関係者との「徹底的な合意形成」です。
もしかすると読者の皆さんもご経験があるかもしれませんが、「徹底的な合意形成」ができていないと、至る所で衝突が起きてしまい、その調整に無駄な時間(コスト)を割いてしまいます。
そのため、私は大まかな方針だけ合意するのではなく、より解像度高く、具体的なところまで合意形成することを心がけています。(できていないことも多々あり、日々精進しております・・・)
最後に
今回は、KPIマネジメントにおけるアンチパターンがアンチパターンたる理由について私なりの考えを記載しました。
基本的なことばかりを書いてしまったので、これまでKPIマネジメントをリードしてきた方からすると有益ではなかったかもしれません、、
しかし、KPIマネジメントとは意外と奥が深いもので、この記事だけでは語りきれなかったものがたくさんあります。
また近いうちに第二弾として記事を書こうかと思いますので、もし聞いてみたいことなどあればお気軽にコメントでご連絡ください〜!
また、データアナリストの方の採用を積極的に行なっています!
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Pioneer Advent Calendar 2022 の5日目は、SaaS Technology Center SaaSテクノロジー統括グループ サービス開発部 開発2課 山川将人さんの「新卒向けパイオニアハッカソンレポート」です。是非お楽しみに!