髙島さんにパイオニアのサウンドの魅力を聞いてみた【前編】
「パイオニア」といえば、年代にもよりますが「オーディオ使っていたよ」なんて方、多いと思います。「音」はパイオニア創業の原点でありDNAです。最近では車載用が主流になっているため、パイオニアが今、音についてどのような事業を展開しているのかよく知らない人も多いのではないでしょうか。今回はその魅力について、パイオニアのサウンド事業を率いるモビリティプロダクトカンパニーCEOの髙島直人さんに、入社半年の新入社員が突撃取材しました。前編後編と2回に分けてお届けします。
サウンド事業のはじまり
インタビュアー:
今日はよろしくお願いします。まだ入社半年で、パイオニアのサウンド事業のことよくわかっていません(汗)が、最初に、パイオニアのサウンド事業について教えてください。
髙島:
はい、パイオニアは、1938年に創業者の松本望さんがスピーカーの会社として創業しました。
当時、海外製しか存在しなかったダイナミックスピーカー(※1)というものを、創業者の松本望さん自ら設計・製造・販売することで、より多くの人にこのダイナミックスピーカーの素晴らしい音を聴いてほしい・体験してほしいという想いから、パイオニアの音としての事業が始まったわけです。
その時の松本望さんの想いが、今、企業理念として「より多くの人と、感動を」という言葉に表れています。
(※1 ひずみが少なく大きな音響エネルギーを扱うことができる構造のスピーカーで、最も広く使われている)
インタビュアー:
1938年!和暦でいうところの昭和13年!そんな昔にスタートしたんですね。(驚)
髙島:
当時はダイナミックスピーカーが事業の発端だったわけですが、その後、パイオニアは「音」と「映像」というコンセプトで事業を展開しました。今は音についてはサウンド事業という形で東北パイオニアが担っているんです。
パイオニアの理想とする音とは
インタビュアー:
創業者の松本さんが感動されたスピーカーの音が原点というわけですけど、その松本さんが感動された音というのがすなわちパイオニアの求める音なんですか?
髙島:
僕も当時のことは体験していないのでわからないですが・・・(苦笑)、おそらく当時は、音楽を家で楽しむっていう習慣が無かった時代なんですよね。たとえば…当時はテレビもないし、おそらくラジオから出ててくる音を楽しむにしても、ラジオはステレオ(※2)ではないし、スピーカーも凄く小さな口径で、音楽もコンサートホールで聴くような音楽じゃなかったと思うんですよね。
(※2 左右2つのスピーカーで音声を再生する方式)
それが、松本望さんが、作ったスピーカーをエンクロージャー(箱)に入れて、家に設置できるようになって、それでおそらくコンサートホールで聴いたことがあるような音が再現できたのではないかなと思います。
これは、今も我々の基本的なコンセプトとして残っていて、コンサートホールで聴くような音楽もそうなんですけど、スタジオで、ミュージシャンが録音した、或いはその録音エンジニアが、ミュージシャンの意図したところを汲み取って、録音したものを忠実に再生する、ということが我々の目指すところだと思っています。
いわゆる「何も足さない、何もひかない。その時の状況を忠実に再現してあげる」ということですね。
インタビュアー:
・・・それはやっぱり、なかなか難しいことなんですか?
髙島:
難しいと思いますね。英語で言えば、スピーカーって「トランスデューサー」という言い方をするんですけど、いわゆる「電気信号」を「音の信号」に変換するという意味でのトランスデュースっていうことなんですね。電気信号に含まれている音楽の情報を、いかに効率よく音に、そしてあますことなく変換できるかっていうことが大事なんです。
それが例えば、ほかの会社だとそこに色がついて出ていってしまうとか、そういうことがあるんです。いかに色を付けずに音を表現するか、がパイオニアの大切にしていることだと思います。
創業から受け継いでいるもの
インタビュアー:
すると、そのために欠かせないのが、我々の技術力ということなんですね?
髙島:
技術力ですね。あと、忘れてはいけないのが創業時より受け継いでいる想い、です。
松本望さんが聴いた音そのものをずっと継承する、ということではなくて、受け継いでいるのは「感動する音を提供したい」っていう想いなんですよ。感動すると言っても、何に対して感動するのかって人それぞれ違うと思うんです。
例えば、ひとりひとり、感動するポイントは正直その人の感性によると思うんですよね。時代進化もあるし、録音技術も進化している。アンプ(※3)も、信号処理もスピーカーそのものも。そんな環境の中で、どれだけアーティストの頭の中を外に出してあげられるか、というのも僕たちの仕事なんです。
(※3 アンプリファイアの略。音響を表現した電気信号を増幅する機器のこと。)
音に色をつけるのではなく、アーティストが思っていることを忠実に再現し、アーティストがまるでその場にいるかのように疑似体験させる、それが1人1人の感動に繋がる、そういうことに我々は取り組んでいるんですよ。
だから、「パイオニアが求める音はこの音です」っていう音は、実は無かったりするんですよね。だって感動した時って、この音の特性がどうのこうのなんて関係ないじゃないですか。たぶん無意識に脳で反応しているはずなんです。それが心を震わす、感動するってことだと思うんです。
確かに、そうした音をつくるには技術力が必要なんですが、技術が先行するわけではなく、想いがあるから技術が生まれるんです。僕たちはこうした松本さんの想いをずっと受け継ぎ、そうして皆さんの感動のお手伝いをしてきた。これからもパイオニアはそういう存在を目指していくべきなのだと思いますね。
インタビュアー:
他のメーカーさんが「音に色を付ける」みたいな話がありましたが、色を付けることによって何か良いことがあるんですか?
髙島:
音には好みがあるので、例えば温かい音やちょっとメタリックな金属的な音を好む方もいます。人それぞれ、いろんな嗜好があるように、音響メーカーもそれぞれの音づくりのこだわりが音の表現となって違いとして表れてくる、それが色を付けるということですね。なので、良いとか悪いとかそういうことではなく、各社のこだわりポイントの違いだと思えば良いと思います。
インタビュアー:
なるほど~。
音の表現の仕方はメーカーによっていろいろありますが、パイオニアは音楽を作った人のそのままの音を再現することで、ひとりひとりの感動に寄与する、そういったアプローチなんですね。
髙島:
ちなみに僕は、TAD(「Technical Audio Devices」の略。パイオニアが創設したプロフェッショナル向けオーディオ製品のブランド。)の「Reference One」で音を聴くと、毎回必ず鳥肌が立つんです。
どんなソースの音を聴いても肌がバァーッとこう、鳥肌が立つようなそういう感覚。これが毎回なんですよ。
僕の琴線にものすごく触れるっていうか。例えるならば、持っている波動が最大にビューンってこういう風に(=手を大きく広げて)触れるんです。そうすると鳥肌がこうバァーッと立つような、そういう感覚になりますね。(笑) 他ではあまりない感覚です。
インタビュアー:
そうなんですか。波動を感じるなんてちょっとスピリチュアルなコメントですね。
髙島:
いや、これは本当に。是非、皆さんに体験していただきたいです。
インタビュアー:
へ~、聞きたくなってきました。 ちなみに、それは例えばどんな音楽であっても?「Reference One」が奏でた音楽を聴くとそういったことが起きるんですか?
髙島:
僕と同じように鳥肌が立つかどうかは人それぞれ違うと思いますが、個人的に、そう感じてくださっている人は多いんじゃないかなと思いますね。
(後編に続きます。3/31にnoteで公開予定です。お楽しみください。)
最後に
インタビュアー:
このnoteをご覧いただいている皆さんや、パイオニアのサウンド事業に興味を持ってくれている方へ、メッセージをお願いします!
髙島:
音、サウンドというのはパイオニアの祖業であるし、今後更に成長が期待できる分野です。今の世の中の変化であるとか、自動車の進化とかEV(Electric Vehicle)化に対しても我々がサウンドを提供できる機会はまだまだ十分あると思っています。
そのためには日々技術的なものを磨き上げていかなければならないし、我々としても新たな技術を開発して自動車メーカーに採用して頂く活動を継続していかなければなりません。これからもどんどん走り続けていくので、そのメンバーに加わりたいという方は是非手を挙げて頂きたいと思います。