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「デザイナーは社会のために何をできるか?」

こんにちは。パイオニア(株)デザイン部の友野です。今回はデザイナーの社会貢献活動について書いていこうと思います。
みなさんは「デザイン思考」や「UXデザイン」といった言葉をご存知でしょうか?デザインをする上での考え方やプロセスの事ですが、こういったデザイナーの思考メソッドが昨今、大きな注目を集めています。また、SDGsという社会目標も大切な世の中なので、うまく結びつけてデザイナーの能力を社会に還元できないものかと考えました。メンバーたちと何度もディスカッションを重ね、出てきたアイディアが「UXデザインの考え方を通して地域の子どもたちに向けたワークショップを開催したらどうか?」というものでした。

と、その前に「UXデザイン」の考え方を簡単に説明しておいた方が良いですね。
UXとはUser Experienceの略で、UXデザインとは「ユーザーの一連の体験をデザインする」という意味になります。もう一段噛み砕くと、「使う人の立場に立って困りごとや課題を抽出し、より良い手段や解決策を創造する」と言う事もできると思います。
実は、これは私たちデザイナーが日々の業務の中で当たり前に行っている事なのですが、その「当たり前だと思っていた考え方」にいま社会的なスポットが当たっているのです。UXデザインの思考法そのものに価値があるとしたら、それを次の世代に伝える事で世の中に貢献できるのではないか?という発想から、先ほどの「子供たちに向けたUXデザインワークショップ」のアイディアに結び付きました。

「多様性の理解と大切さ」

私にも小学生の息子がいるのですが、彼に聞くと学校でSDGsについての授業もあるようなので、今の子どもたちは「多様性の大切さ」についてある程度の理解はできていると思います。ただ、実感として受け止められているかというと、その点はまだ少し難しいかもしれません。「知る事」と「体験する事」では理解の深さが違うので、今回のワークショップは子どもたちに多様性とはどういう事か実感してもらえる良い機会にしたいと思いました。

ここでデザイナーの仕事を少しお話すると、多くの場合まず始めにターゲットユーザーについてリサーチします。ただし、対象のユーザーが自分とは全く違う嗜好/年齢/文化等の場合もあります。パイオニアの場合はグローバルにビジネスを展開しているので、日本から遠く離れた、ライフスタイルや環境も異なる人たちに向けてデザインをすることも多々あります。そうすると、そのユーザーがどんなことに惹かれ、どんなことに困っていて、と、自分とは違う境遇の遠く離れた人について思いを馳せる旅が始まり・・・ ⇐ここが多様性理解への入り口に当たる部分なのですが、自分とは違う課題を抱える人に対してソリューションを考える事は基本的でありながら最も重要な部分です。自分の価値観に近い人の事は割と想像しやすいですが、まったく接点の無い人の事をひたすら深堀していく作業は、子どもたちの日常生活の中ではあまりない経験かもしれません。「多様性」というと、どうしてもマイノリティの方への配慮といった事を連想しがちですが、決してそんな限定的な意味ではなく、自分以外の全ての人を自分と同じくらい大切に想うという事だと思います。広い社会の中で他人を認めるという事は、同時に社会の中で自分を認めてもらう事にも繋がっていきます。

前置きが長くなってしまいましたが、UXデザインワークショップのテーマは「徒歩での移動に困っている人の為の音声ナビを考えよう」としました。ここで言う「徒歩での移動に困っている人」というのがポイントです。今回は子どもたちと接点が少なそうな視覚障がい者や高齢者をターゲットユーザーに想定して、音声ナビの案内を考えてもらいました。、また、パイオニアは「NP1」という音声ナビ機能を搭載した製品や「Piomatix」というプラットフォームを通して移動についてのさまざまなソリューションを提供しているので、ワークショップの中でうまく活用したいとも思っていました。

NP1 | Pioneer (jpn.pioneer)

ワークショップが継続して地域に定着していくと同時にパイオニアの製品や技術も広く認知されていって欲しいという願いからです。自社の技術を活かした社会貢献というアイディアはCSR活動を少しCSVの方向にシフトさせ、企業からより強いメッセージを届けることができるのではないかと思います。こういった観点からも良いテーマ設定になったと感じています。

ワークショップでは、最初に参加者を「視覚障がい者向けの音声ナビ案内を作るチーム」と「高齢者向けの案内を作るチーム」の2組に分けて別々にワークをしてもらいました。あえて2チームに分かれて貰ったのは、同じルートの道案内でもターゲットユーザーが違うとアウトプットも変わるということを体験して欲しかったからです。
各チームにはパイオニアのデザイナーが一人ずつついてファシリテートを行ったのですが、参加者の意見をうまく引き出す工夫をしたり、こういった経験を通して業務にも役立つスキルが磨かれていきます。

「失敗して気づくこと」

まず、ターゲットユーザーの特徴や移動に関する困りごとを抽出した後に、徒歩ナビの音声案内の内容を考えます。視覚障がい者をターゲットユーザーにしたチームでは、点字ブロックや壁の切れ間など、視覚以外の情報を手掛かりにしたアナウンスを作成しました。これは、ユーザーの深堀の作業を通して「視覚障がいの方々は白杖から伝わる触覚的な情報を頼りに道を歩いている」という事が分かったからです。例えば「30メートルほど連続する壁が途切れたら、そこの角を左に曲がってください」というような感じです。一方、高齢者をターゲットにしたチームは、なるべく坂道の少ないルートを選んで疲れないようにする工夫をしていました。右左折の案内地点は、高齢者でも気が付きやすい目印を選んで大きな声でゆっくり伝えるといった配慮もされていたのが印象的でした。

目的地までの道順とアナウンスの内容も決まったので、実際に子どもたちが作った音声案内でゴールに辿り着くことができるか試してみます。ここで大事なのは「失敗すること」です。何のハプニングもなくスムースに目的地に着いてしまっては気づきや学びはあまり得られません。失敗することで「なぜうまく伝わなかったのだろう?」と考え、次に向けてブラッシュアップする経験が大切なのです。UXデザインのプロセスの中で「トライ&エラー」というものがありますが、そもそもエラー(すなわち失敗)することが前提になっているのです。学校や塾では失敗することはきっと恥ずかしかったり気がひける部分もあると思いますが、ここでは子どもたちに安心して失敗してもらい、気づきを沢山得てもらいたいと願っています。ワークショップの中では、NP1の「ドライブコール」というビデオ通話機能を使って子どもたちから音声で指示を出してもらったのですが、ユーザーが想定していなかった方向に歩いていってしまったり、ハプニングがあった時が一番盛り上がりました。こちらの狙いを言わずとも、子どもたちのいきいきとした表情や反応を見ていると私たちも嬉しくなります。今は教育の現場でもクリエイティビティを重視したカリキュラムが増えていると聞きますし、デザイナーの力を活かして子供たちに「創造すること」を学んでもらえた事にも意義を感じることができました。

「デザイナーのチカラ」

今回のワークショップは若手~中堅のデザイナーが自分たちで企画を立ち上げて業務の隙間を縫いながら準備やリハーサルを繰り返し、実現させたものです。パイオニアのデザイナーの力は、自社製品のデザインだけでなくこういった社会活動にも役立っている事を多くの人に知ってもらえたら嬉しいです。また、幅広い活動ができるデザイン部の風土を大切に育てていきたいと思っています。今回立案したワークショップはモノ作りの基本的なプロセスをギュッと凝縮して短時間で体験できるので、子ども向けだけでなく新入社員研修などにも応用できるのではないかと密かに企んでいたりします。という事で、長くなりましたが今後の展開もお楽しみに!

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